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【くらし】ストップがん離職/非正規に「健康格差」

2015/01/18

 派遣社員ら非正規雇用の人ががんになると、離職に追い込まれることが多い。働く人を守る休職などの制度が、多くの企業では非正規雇用に適用されないことが原因。がん患者の支援団体は「雇用格差が健康格差につながっている」と指摘する。

 東海地方の40代男性は、電気製品の部品工場で派遣社員として働いていた6年前、精巣がんを患ったことをきっかけに仕事を失った。

 下腹部が腫れて痛いなどの異変を感じたのは、派遣されて2年たったころ。病院を受診すると、がんと診断され、手術で2週間入院。退院後すぐにフルタイム勤務に戻った。「派遣会社から借りた治療費を返さなければならないし、これ以上休めないから」だった。

 だが、手術の後遺症で足がむくみ、疲れやすい。リフトを操作して部品を運ぶ無理がたたり、2カ月後に胃潰瘍のために工場で吐血。病院で一命を取り留めた翌日、派遣元から一方的に別の派遣先を紹介された。「部品工場の幹部は、僕ががんであることを知っていた。だから派遣切りされたのでしょう」と男性。新たな派遣先は遠距離にあり、行くことは無理で、生活保護を受けるしかなかった。

 その後の職探しでも、がんが壁の1つになった。ハローワークで紹介された数十社すべて不採用。「面接でがん経験を伝えており、生活保護との2重のデメリットに、企業が二の足を踏んだのでは」。ようやく昨年末から、障害者福祉施設でパートのヘルパーとして働いている。

 一方、四年前まで近畿地方の自治体で臨時職員として働いていた女性(45)は、当時の上司から言われた「まだ、そんなあつかましいことを要求するんですか」という言葉が今も耳から離れない。

 乳がんの抗がん剤治療を受けた際、副作用がひどく、職場の理解で特別に一カ月休めた。治療が長引き、契約更新前に休暇の延長を申し出たときだった。

 会社員の夫と共働きで、中高校生の息子2人の教育費は、女性の稼ぎが頼りだった。だが、体のつらさと、上司の言葉に気持ちがなえて退職。退職理由は「自己都合」にされた。「非正規の立場の弱さを思い知った」。傷病手当金と雇用保険でしのぎ、今は派遣で働く。

◆低い健診受診率

 NPO法人「HOPEプロジェクト」(東京都)のインターネット調査によると、定期健診の受診率は正規雇用が7割だったが、非正規は4割にすぎなかった。

 理事長の桜井なおみさん(48)によると、社会保険に入れず勤務先の健診を受けられない非正規雇用も少なくないため、結果的にがんの発見が遅れて治療が長引き、離職につながっているという。「雇用の違いが健康格差につながっている。非正規の休職を保障したり、企業が雇い続けられるよう行政が補助金を出したりするなどの対策をすべきだ」と話す。

 一方、がん患者の就労を支援する「仕事と治療の両立支援ネット~ブリッジ」(名古屋市)が昨年、がんを告知されたとき働いていた人を対象に、雇用に影響が出たかインターネットで調査した。非正規雇用111人のうち56%が離職したと答え正規雇用(167人)の23%を上回った。

 代表の服部文さん(44)によると、職場の裁量で勤務時間内の通院や特別な休暇が許された事例もある。病気になって初めて、制度がないことに気づく人も多い。「配慮を引き出すためにも、普段から職場の良好な人間関係づくりや、仕事で欠かせない存在になる努力も必要だ」と話す。

 (山本真嗣)

生活保護費が振り込まれた通帳を眺める男性。いまを生きるための唯一の収入だ=東海地方で(一部、画像処理しています)
生活保護費が振り込まれた通帳を眺める男性。いまを生きるための唯一の収入だ=東海地方で(一部、画像処理しています)