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【くらし】技能評価で定着図る 離職率高いパート介護職員

2015/11/16

 介護職場でのパート従業員不足が深刻だ。厚生労働省は10年後には介護人員38万人(正社員を含む)が不足すると推計する。パートの技能を評価して、働き続けやすい職場環境づくりを目指す動きが事業所に広がっている。

 「求人誌で、この会社にパートの研修制度があり個別の評価に応じて時給が上がることを知って入社しました」。介護事業会社ソラスト(東京)の事業所で、訪問介護を担当する常勤ヘルパーの林未来(みき)さん(41)は話す。

 会社員の夫と、息子2人がいる家庭の主婦。子どもが成長したのを機にパートを始め、服飾販売で8年間勤務した後、3年前に非常勤パートとしてソラストに入社した。

 同社は、社内で資格取得の講座や研修を実施し、従業員の技能レベルを上げようとしている。技能レベルは7段階で、生活介護では1200~1500円、身体介護では1700~2000円の範囲でパートの時給を上げる。筆記と実地の試験を経て、上司が評価する。

 介護に関する資格がなかった林さんは、会社の費用負担で、介護の初任者研修を受講。仕事を開始した時の技能レベルは最も下で、時給は1200円だった。その後も業務時間内に研修を繰り返し受講し、今年6月には技能レベルが4段階上がり、時給は1350円にアップした。7月からは上司の勧めで正社員にあたる常勤ヘルパー(月給制)になり、管理業務にも携わる。

 林さんは「自分の専門性が高まるのがうれしいし、収入の安定にもつながる。次は、たんを適切に吸引できるようにしたい」と意欲を示す。

 同社が研修制度を設けたのは2007年。藤河芳一・介護事業本部長は「介護の仕事に向く人を採用し、育てる仕組みを取り入れた。その方が質の高い介護人材を長期にわたり確保できる」。全従業員約2000人のうち約1400人のいる非常勤パートに常勤化を促しており、これまで延べ約270人が常勤化した。

 一方、地方の介護事業所でも技能向上の支援に取り組む企業が出てきた。

 岐阜県内で15カ所の訪問介護事業所を運営する介護会社「新生メディカル」は、1日に複数の訪問件数をこなしてさまざまな身体介助を繰り返すことで、ヘルパー個人の技能レベルのアップを目指している。

 訪問先で複数の身体介助が必要な場合には、身体介助の種類ごとに複数のヘルパーを時間差で派遣。サービスとサービスの間の「無駄な拘束時間」が大幅に減ったという。またヘルパーごとに訪問件数と介助内容をあらかじめ決めて報酬額を固定化し、生活設計しやすいように配慮した。

 同社の今村あおい取締役部長によると、訪問件数を増やすこのやり方では、短期間で技能が習熟できて自信をつけやすく、結果的に離職も少なくなったという。「身に付けた介護の技能を生かせるようにしたい」としている。

◆「やりがい」が重要

 公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、介護現場でのパートの割合は4割で、年間離職率は16・5%、3年以内に辞めた人が7割を占める。パート労働の活用に詳しいコンサルティング会社「働きかた研究所」(東京)の平田未緒所長は「家庭の事情や仕事のやりがい、職場環境が女性の就労意欲に与える影響は大きい。多くの女性が支える介護現場では、就労意欲を引き出す職場の改善が必要だ」と指摘する。

(林勝)

介護事業所で同僚と打ち合わせをする林未来さん=千葉県松戸市で
介護事業所で同僚と打ち合わせをする林未来さん=千葉県松戸市で