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【暮らし】変わる派遣/3年後に「雇い止め」危機

2015/09/21

 すべての業務で派遣期間を3年にする改正労働者派遣法が30日、施行される。企業は、人を代えれば同じ現場で派遣社員を使い続けられるが、特に中高年の派遣社員は行き場を失って失業する恐れがある。

◆中高年へ既に通告の例も

 「3年後には辞めてもらいます」

 東京都内の会社で派遣社員として働く50代の女性は5月、派遣先から3年後の「派遣切り」を通告され、言葉を失った。この会社で15年間働き続けているが、雇い止めは法改正を見越しての対応とみられる。

 仕事はパソコンを使ったデータ処理などを担う「事務用機器操作」。期間の制限がなかった専門26業務の1つで、派遣会社と3カ月間の契約更新を繰り返してきたが、法改正で同じ職場で働ける上限が3年に。

 長年、お茶くみや電話対応など契約業務以外の仕事もこなし、自腹で秘書検定などの資格をとり、正社員を目指してきた。だが、時給は15年前より80円上がっただけ。派遣会社による無期雇用も、年齢を理由に拒否され、派遣会社から「(3年後には)あなたに紹介できる同種の仕事はない」と雇い止めを言い渡された。将来の失業が濃厚になっている。

 改正法にはさまざまな雇用安定措置があるものの、女性は「派遣会社はお客さまである派遣先の言いなり。派遣先に正社員化を義務付けなければ意味がない」と憤る。

 一方、群馬県内の精密機械会社で17年間、電子機器の設計をしている派遣社員の50代の男性も、3年後の正社員化や派遣会社への無期雇用は「年齢的に無理」と伝えられた。新たな派遣先を見つけなければならないが、男性には近くに一人暮らしの高齢の母親がおり、地元から離れられない。男性は「県外の仕事を紹介されたら対応できない」と嘆く。

 法改正に合わせ、懸念されている3年後の「雇い止め」を通告されるケースが相次いでいる。中でも、長年同じ職場で働き続けてきた40~60代は転職が難しいケースが多く、3年後の「大量失業」を不安視する声も少なくない。

 厚生労働省は8月、派遣業界団体に対し、法改正のみを理由として26業務の雇い止めをしないよう要請。「雇用安定措置を厳しく監視するため、大量失業の恐れはない」とする。

 改正法には、国が派遣労働者の正社員化を促進するために最大限努力することなど約40項目の付帯決議がついた。だが労働法制に詳しい名古屋大法科大学院の和田肇教授(61)は「付帯決議の多くが派遣法の根源にかかわる内容。そもそも、40もの付帯決議自体が異例で、法律の欠陥を表している」と批判する。

 派遣ユニオン(東京都)の関根秀一郎書記長(51)は「派遣契約の終了だけを理由に派遣会社が解雇できないことを許可基準とするなど雇い止めを防ぐ対策が必要」と話す。
(山本真嗣)

 <改正労働者派遣法>これまで派遣期間に制限のなかった専門26業務(通訳、秘書、機械設計など)を、一般業務と同じ最長3年間に限定する。3年の派遣期間終了時、派遣会社に▽派遣先に正社員化を依頼▽新たな派遣先の提供▽派遣会社で無期雇用-などの雇用安定措置のほか、教育訓練の実施を義務付けている。