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【暮らし】がん治療しながら働く 患者の再就職、復職支援

2015/09/07

 がん患者の再就職や復職を支援するため、病院とハローワーク、企業の連携が深まっている。ハローワークが病院で新たな仕事をあっせんするほか、今の勤務を続けたい人にはがん治療との両立が可能であることを会社に説明する病院もある。現役世代が、治療のため職を失う事態を避け、がんと共生する社会を目指している。

 「お話が上手なので、結婚相談所のコーディネーターのお仕事はいかがですか」。8月中旬、愛知県がんセンター中央病院(名古屋市)の相談室。ハローワーク名古屋東のキャリアカウンセラー、中村清美さん(48)が40代の女性会社員に勧めた。

 女性は初期の乳がんで手術を受け、休職して抗がん剤などの通院治療を受けている。正社員なのでできれば今の会社に勤め続けたいと考えているが、仕事が夜遅くなることもあるため、「体力を考えると、治療を続けながら仕事を続けるのは難しいかも」。がん治療に詳しい上司もおらず、「暗に退職を促されている」ことに加え、生活費と毎月10万円近い治療費の確保が必要だという。

 中村さんは「昼間の仕事に限定したい」などの女性の希望を聞き、条件や適性に合った3枚の求人票を提示。このうち1社に女性が興味を持ち、中村さんが会社と打ち合わせることになった。「3週間に1日の通院休暇が必要だが、十分に働けることを説明したい」と中村さん。「働くことをあきらめなくてもいいと安心できた」と女性は喜ぶ。相談には病院の医療ソーシャルワーカーも同席し助言する。この病院では八月から毎週木曜日に開かれている。

 病院とハローワークの連携は2013年度から始まり、本年度は全国16病院で実施。昨年度は、あっせんを希望した患者479人のうち209人が就職した。厚生労働省は全国に広げる検討をしている。

 静岡県立静岡がんセンター(同県長泉町)はこのほか、県東部六市町の約5200社でつくる沼津法人会と連携。患者本人が就労希望書類を法人会に提出し、過去4年間に4人が会員企業に就職した。

 一方、今の会社で働き続けたい人には、病院が患者が働く企業と直接折衝する取り組みも始まっている。東京労災病院(東京都)は昨秋から、患者から仕事の悩みや勤務条件などを聞き取った上で、会社の担当者や産業医らと病状に応じた仕事内容や勤務時間、休みの取り方などを話し合い、復職につなげている。

 同病院の小山文彦・治療就労両立支援センター両立支援部長(53)は「どの程度働けるのか、会社は分からないことが多い。職場と主治医、患者、家族との情報共有が必要だ」と話す。

◆4分の1が退職、半数の収入減る

 治療を続けながら社会復帰する患者が増える一方、企業の理解は十分には進んでおらず、がん患者の就労環境は厳しい。12年の厚労省研究班の調査では、がんと診断された時点で働いていた382人の4分の1が退職し、半数の収入が減っていた。

 がんを経験した社会保険労務士らが無料で就労相談に応じている一般社団法人CSRプロジェクト(東京都)の桜井なおみさん(48)は「病院はがんを治療するだけでなく、生活者としてケアをしていく必要があり、職場との連携はますます重要になる」と話す。

 電話相談は予約制。問い合わせは同法人=電03(5577)6440=へ。

(山本真嗣)

がん患者(右)に求人票を説明する中村清美さん(中)と、医療ソーシャルワーカーの船崎初美さん=名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で
がん患者(右)に求人票を説明する中村清美さん(中)と、医療ソーシャルワーカーの船崎初美さん=名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で