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【社会】バイトの闇 学生に光中部大が相談窓口設置

2015/08/26

 アルバイトなのに学業に支障が出るほど過酷な労働を強いる「ブラックバイト」から学生を守ろうと、中部大(愛知県春日井市)が、学内に相談窓口を設置した。悪質なケースの場合、解決に向けて同問題に取り組む対策弁護団とも連携していく。大学自らが支援に乗り出す例は全国でも珍しいといい、設置を後押しした弁護士らは「被害を防ぐため、他大学にも広がってほしい」と期待する。(社会部・谷悠己)

 「先生、バイトが忙しくて授業のフィールドワーク(野外研究)には行けません」。相談窓口の開設に奔走した応用生物学部の宗宮(そうみや)弘明教授は数年前、教え子の学生から告げられた。

 コンビニで、アルバイトにもかかわらず発注やレジ管理といった店長並みに責任の重い仕事を任され、休めないという。ただ当時は、「そんなにきついバイトなら辞めればいいのに」と思っていた。

 認識が変わったのは今春。愛知県弁護士会の若手が中心の「ブラックバイト対策弁護団あいち」に所属する知り合いの弁護士に、ブラックバイトの現状を聞いたのがきっかけだった。

 景気低迷で奨学金への依存度が高まる中、労働法などの知識に乏しい学生らが、正社員並みのノルマや義務を伴う重労働を低賃金で担わされているという。宗宮教授は「支援の必要性に気付いた」と語る。

 まず、学部長を務める応用生物学部で事務員が学生の相談を受け付ける取り組みを始めた。問題意識は大学全体に広がり、若手教員が学業や学生生活の相談を受け付ける中部大独自の「コンシェルジュ(世話係)」制度を活用することに。辞めるのを拒否されたり、賃金が未払いだったりといった深刻な相談は弁護団につなぎ、悪質業者に法的手段で対抗する態勢を整えた。

 山下興亜(おきつぐ)学長は「劣悪な労働環境から抜け出すのも、学生にとっては成長の糧になる。大学はその手助けをするべきだ」と話す。

 「ブラックバイト」の呼称を発案した中京大の大内裕和教授(教育学)は「バイト先で不当な扱いを受けてもどこに相談したらよいか分からず、泣き寝入りを強いられている学生は多い。最も相談しやすい大学内に窓口が設置されたことの意義は大きい」と話す。

    ◇

◆「不当な扱い」67%
◆市民団体が実態調査

 「商品の買い取りを強要された」「残業代がきちんと支払われなかった」。弁護士や大学教授らでつくる市民団体「ブラック企業対策プロジェクト」(東京)が四月にまとめた調査結果では、アルバイト先で不当な扱いを受けたと回答した学生は約67%に上った。

 調査は昨年7月、中部地方を含む全国27大学の4700人に実施。

 最も多かった不当な扱い(複数回答)は「希望していないシフトに入れられた」で21%。回答者らは「どうしても出勤できない日以外、ほぼ出勤日にされた」「休みの予定日はひとまず『保留』扱いとなり、実際に自分が休めるか前日まで分からない」などの体験をつづった。

 また、18%は勤務実態が募集条件と異なっていたと回答。「時給1000円との触れ込みだったが、1年たっても研修扱いで870円」などのケースがあった。さらに、11%は「社員から暴言や嫌がらせを受けた」という。

 アルバイトの負担が大きいあまり、「授業の集中力が大幅に低下する」「バイトと食事、風呂、睡眠しかできない生活になった」などと記述した学生も。同プロジェクトは対策として「各大学が相談窓口をつくることが望ましい。学生も、就労時の条件を書面で保管しておくなど自衛策が必要だ」と指摘する。

相談窓口で学生に対応する教員(左)。ブラックバイトへの注意喚起を呼びかけるチラシも置かれている=愛知県春日井市の中部大で
相談窓口で学生に対応する教員(左)。ブラックバイトへの注意喚起を呼びかけるチラシも置かれている=愛知県春日井市の中部大で