中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】部下に活力「勇気づけ」管理職向けの研修盛ん 

2015/01/05

組織に貢献できる喜びを

 部下とのコミュニケーションや職場の雰囲気づくりに悩む管理職向けの研修が盛況だ。ほめ方やり方を学ぶ研修の一方で、ほめるとは異なる「勇気づけ」をキーワードにした「アドラー心理学」がビジネス書でも話題に。関連本や研修を数多く手掛ける「ヒューマン・ギルド」(東京)の岩井俊憲さんに、職場での実践方法について聞いた。 (福沢英里)

 ◇ ◇ ◇

 「ある中小企業の経営者がいます。職場では怒鳴ってばかり。当然、職場の雰囲気も悪くなり、社員との距離がどんどん開いていきました。さあ、経営者はどうしたでしょう」

 企業や一般向けに、アドラー心理学を伝えて30年になる岩井さんが語りかけた。岩井さんのアドバイスを受け、経営者が実践したのが、社員に感謝の気持ちを示すことだった。

 社員1人1人の仕事ぶりを見ながら、付箋に「ありがとう」の言葉を書いて机に貼っていく。最初はけげんな表情の社員たちの中に、付箋を集める者も出てきた。経営者の誕生日に社員からメッセージが寄せられるなどの変化も。職場の雰囲気が良くなり、コミュニケーションも活発になったという。

      ◇

 社員が気持ち良く働けるように経営者が実践した「ありがとう」を、アドラー心理学では「勇気づけ」と呼ぶ。「メールやメモ、手紙でも何でもいい。日々の仕事の中で、意識して感謝の気持ちを伝える機会を増やすだけで、職場の雰囲気は変わる」と岩井さんは強調する。

 感謝を受け取った人は否定のしようがない。経営者の謝意に対し、社員が誕生日に祝福の気持ちを返したように、感謝の気持ちはいずれ返ってくる。感謝の気持ちが書かれたメモや手紙は、つい取っておきたくなる。

 ただ、「ほめる」とは違うので注意が必要=表。良い面に目を向ける意味では共通点もあるが、ほめるには、相手を気持ち良くさせて何かをさせようという下心がある。一方、勇気づけは共感的な、対等な態度で、相手の行為の良い面や努力の過程にしっかり目を向け、見守っていく姿勢が重要だ。

 例えば、部下が目標を達成したときに「すごい」「よくやった」とほめても、達成できなかったときに態度が変わるようでは、部下はいつまでも上司の評価を気にして、失敗を恐れるようになる。部下が失敗しても上司は受け入れ、挑戦した姿勢や、本人の成長に目を向けられるかどうか、その点が大きく異なる。

 難しく考えず、「ありがとう」「助かるよ」「組織にとってよかったよ」といった共感的な言葉を投げかけてみる。日頃から勇気づけられている社員は「自分で判断し、行動できるようになる」「組織に貢献できる喜びを知る」といった成長が得られる。チームやグループなどの組織で仕事に取り組む上で、ヒントになりそうだ。

-------------------------

 ●ほめる
 優れている点を評価し、称賛すること。
 評価的態度、上下関係→依存的にする

 ●勇気づける
 困難を克服する活力を与えること。
 共感的態度、対等の関係→自立的にする

-------------------------

【アドラー心理学】
 ウィーン生まれの精神科医・心理学者アルフレッド・アドラーが築いた心理学。自分を主人公にする、人は過去の原因ではなく、未来の目標に向かって行動する、などの理論がベース。対人関係上の困難を克服する活力を与える「勇気づけ」を主な技法とする。

「ほめる」と「勇気づける」の違いを説明する岩井俊憲さん=東京都新宿区で
「ほめる」と「勇気づける」の違いを説明する岩井俊憲さん=東京都新宿区で