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【地域経済】職場発 うちの秘策/駅員心得ベテラン直伝

2014/12/19

JR東海 名駅勤務28年・沢さんが私塾

 新幹線や在来線、私鉄、地下鉄が入り乱れ、1日40万人が行き交う名古屋駅(名駅)で、駅員は道案内から料金まで利用者のさまざまな質問に答えてくれる心強い存在だ。旧国鉄時代から、名駅で駅員業務をこなしてきたJR東海の沢正和さん(57)は、若手を対象に「沢塾」と銘打った勉強会を開き、利用客への接し方の「心得」を伝授している。(石井宏樹)

 ◇ ◇ ◇

 「浜松-京都の片道切符を学生割引で購入した人が、名古屋で旅行を中止しました。いくら払い戻しますか」。こんな具体的な質問が並ぶ問題集。沢さんが解答をのぞき込み「これはどういう計算をした」と尋ねた。名駅に配属されて1年目の吉川直輝さん(21)が自信を持って「残りの距離が101キロ以上あるので、京都までの差額から手数料を引いて払い戻します」と答える。「グッドやね」。沢さんの顔がほころんだ。

 名駅に配属された新入社員らの大半が沢塾に入り、今は75人が学ぶ。駅員用の点呼室にあるレターボックスから問題集を持ち帰り、時刻表や規則を読みながら答えを書き込むケースが多い。時には、吉川さんのように点呼室で個別指導をするときもあるという。

 沢塾はレベル1~4があり、問題は全部で480問。沢さんが採点し、満点を取ったら次に進める。点呼室の壁の一覧表には、塾生の進み具合に応じて赤いシールが貼られていく。問題は、不足運賃の精算や払い戻し、ICカード乗車券や異常時の対応など多岐にわたる。他社との連絡定期券などが絡むと、かなり複雑になる。沢さんは「最難関のレベル4をクリアできれば他人のミスも指摘でき、本当の1人前」と話す。

 1976年に旧国鉄に入った沢さんは分割民営化直前の86年以降、28年間を名駅で過ごし、新人教育も担当した。「若手を教えるのが趣味だった」といい、10年前に沢塾を始めた。会社の正式な組織ではなく、私塾の位置づけだ。

 現在、払い戻しの金額は自動で計算されるが、機械は「何でこの金額なのか」を説明しない。異常時に機械が止まることもあり得る。沢塾では、答えに至る計算式をすべて書き残すよう指導。沢さんは「笑顔であいさつするのがサービスじゃない。基礎的な知識を1つでも多く身に付けて初めて旅客への対応がスムーズにできる」と口酸っぱく教えている。教えを受ける吉川さんは「複雑な質問を受けても、沢塾で訓練しているので自信を持って答えられる」と語る。

 沢さんが新人のころは、疑問は自分で調べるか先輩に個人的に聞くしかなかった。沢さんは「最近の若い駅員は疑問をあまり聞きに来ない。遠慮せずに来てほしい」と寂しがる。こんな世話好き塾長が中部の巨大ターミナル駅を支えている。 

改札業務についての問題集をもとに、吉川直輝さん(右)を指導する沢正和さん。後ろには進み具合を示す一覧表が貼られている=JR名古屋駅で
改札業務についての問題集をもとに、吉川直輝さん(右)を指導する沢正和さん。後ろには進み具合を示す一覧表が貼られている=JR名古屋駅で