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【経済】2014衆院選 アベノミクスを問う/仕事あっても…職人いない 建設中小

2014/12/11

届かぬ好況

 建設業界が東日本大震災の復興や東京五輪を控えた需要で沸き返る中、中小企業に恩恵が届いていない。リーマン・ショックを経て職人の多くが離職してしまい、人手不足で仕事をこなせないからだ。アベノミクスの「第2の矢」と呼ばれる財政出動も、景気のカンフル剤としての効き目が鈍っている。(渥美龍太)

◇ ◇ ◇

 「2年後?」。住宅や低層ビルの建設を手掛けるサカエ(愛知県豊明市)の石黒俊朗社長(55)は今年夏、電話口で耳を疑った。同社は作業工程ごとに外部の職人に仕事を発注しており、3階建てビルの建設で鉄骨工事業者に相談した際、「2年先まで仕事が埋まっている」と予想外の答えが返ってきたからだ。

 この業者には郊外の大型スーパーや名古屋駅周辺ビルの建設などの仕事が相次いで入っており、石黒社長は「規模の大きな工事から順番に職人をとられる。ウチのような小さな仕事には回ってこない」と嘆く。3社に断られた後、ようやく比較的規模の小さな別の鉄骨業者に頼むことができた。

 政府は公共事業をはじめとした財政出動を増やしている。東京五輪開催が決まるなど民需も活発な中、建設業界は好景気と思われがちだ。ただ、これまでに小泉政権や民主党政権が公共事業を削減した上、リーマン・ショックの直撃で職人の数は減り続けている。

 中小企業者でつくる愛知中小企業家同友会副代表理事で、オフィスビル建設を手掛ける加藤設計(名古屋市)の加藤昌之社長(60)は、公共事業に予算をつぎ込む政府の施策に「職人という受け皿がいなくなり、空回りしている」と指摘する。

 今は資金力で人手を確保し、仕事をこなすゼネコンも、先行きを楽観してはいない。愛知県駐在の大手ゼネコン幹部は「首都圏ほどでないが、中部地方も人手はギリギリ。名駅周辺の再開発などが本格化すれば今後、猛烈な職人の奪い合いになる」と見通す。

 サカエは今年後半、職人不足で工期が遅れがちだった。人件費がかさむ上に円安に伴う資材の高騰があり、仕事があっても業績が伸びない。石黒社長は「建設業界が好景気とは、いったいどこの話なのか。中小には関係ない」と実感を込める。

 自民党は衆院選公約で「切れ目のない経済対策で景気を下支え」と明記している。石黒社長は「ただ公共事業を増やすよりも、全国的な職人融通のネットワークをつくるとか、金をかけずにやれることがあるはず。現場で起きていることを知ってほしい」と訴える。

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◆とび職など求人7倍超

 総務省によると、建設業の就業者数はピーク時の1997年に685万人だったのが、2013年には499万人へと27・2%減少。公共事業などの仕事が増えても、担い手が先細りしている。

 求職者1人当たりの求人件数を示す今年10月の有効求人倍率をみると、とび職など建物の骨組みを担う職種は、7・35倍と他職種と比べ飛び抜けている。リーマン・ショック後に求職と求人がほぼ同数にまで落ち込んだのが、一変した。

 愛知県でも高い水準が続き、今年に入ってからの倍率は8~11倍程度。愛知労働局の担当者は「求人票を出し続けるだけでなく、採用条件のハードルを下げる企業もある」と話す。

サカエが建設する住宅の床の枠組みを作る職人=名古屋市昭和区北山町で
サカエが建設する住宅の床の枠組みを作る職人=名古屋市昭和区北山町で