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【くらし】重い心疾患者の就労多難 フルタイムできず、「非正規」で低収入

2014/11/21

障害基礎年金 厳しい受給条件

 「体に無理のない範囲で今は月10日、パートで働いていますが、少しでも働いていると障害基礎年金はもらえません」

 先天性の心臓病の一種・ファロー四徴症(しちょうしょう)の山口鹿野子(かのこ)さん(42)=東京都板橋区=はシンポで自身の経験を語った。

 山口さんは高校卒業後、総合商社で働いた。2歳のときに手術を受け、入社時は病状も安定しており、一般雇用だった。月約20時間の残業などはきつかった。それでも「つらい」と言えず、無理を重ねたため、体調を崩して6年後に退社した。現在の給料は当時の3分の1程度。勤務日が限られ、残業もないため、生活するのに十分な金額ではなく、親と同居して生活が成り立っているという。

      ◇

 シンポは心臓病児の親たちでつくる一般社団法人・全国心臓病の子どもを守る会(東京)の全国大会の中で開催。今年のテーマは「心臓病の子どもが大人になったとき」。心臓病児を多く診察する愛媛大医学部の檜垣高史・特任教授が出席し、守る会の会員など、20歳以上の患者のいる全国の世帯373人を対象に、昨年実施した就労・年金などの調査結果を報告した。

 結果によると、約7割が障害者手帳の1級を取得し、全体に症状は重め。それでも%が働き、その約半数がフルタイムの正規雇用だった。一方、短時間で正規雇用の人はごくわずか。体調に合わせて「短時間」を選ぶと、賃金の低い非正規雇用にならざるを得ない構造だ。体力がなく、ごく短時間しか働けなければ収入はさらに低くなる。

 収入不足を補う障害基礎年金を得ようにも、条件は厳しい。月約6万円が受給できる障害基礎年金2級は「介助が必要で、軽労働ができない」などが条件。月約8万円の同1級は「終日就床」とされる。

 心疾患などの内部障害者は、「体は動かせるが、疲れやすく、仕事や生活に支障が生じる」という人が多い。働きづらさはあっても、障害年金の受給条件に当てはまらないケースが非常に多いという。調査でも障害基礎年金の受給者は・8%だった。

 檜垣さんは「障害年金の仕組みが、先天性心疾患の患者さんの実態に合っていない。週4日しか働けない体力であれば、1日分の所得を保障する。そうした体力に合わせて働ける仕組みづくりが必要ではないか」と訴えた。

 生まれつき心臓に病気のある赤ちゃんは、100人に1人の割合で生まれる。症状が重いと手術をしても心機能が十分回復しないため、多くは成人後にフルタイムの労働が難しく、パートなどの非正規雇用を選ばざるを得ない。障害基礎年金も受けられず、経済的に自立しにくい-。先月末、東京都内で開かれた支援団体のシンポジウムで、そんな厳しい現状が報告された。 (佐橋大)

【先天性心疾患】
 生まれつき心臓や血管の形が正常と違う病気。年間約1万人が生まれる。治療が不要なごく軽いものから、生まれてすぐ手術が必要な重いものまでさまざま。医療の進歩で約9割の患者が成人に達し、成人の患者は約万人とされる。重症だと手術で完治せず、血流の悪さから体力に問題を抱える人も多い。

「円滑に働くためにはコミュニケーション能力も高めないと」などと訴える山口鹿野子さん(左)=東京都渋谷区で
「円滑に働くためにはコミュニケーション能力も高めないと」などと訴える山口鹿野子さん(左)=東京都渋谷区で