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【暮らし】就活に苦しむ吃音者 学生らの経験 ネットで公開

2014/10/13

 言葉が流ちょうに話せない吃音(きつおん)者が就職活動で苦しんでいる。面接でつまずき、国内での就職を諦めて海外に行く人や、不安で就活を始められない人も。専門家は「話す内容や人物全体を評価して」と採用側に理解を呼び掛けている。

 ◇ ◇ ◇

 「に、に、に、に、に、に、に、に、にがつ…」

 誕生日の「2月」を言おうとした瞬間、症状が出た。名古屋市内の大学院の男性(23)は9月に同市で開かれた「吃音カフェ」で、数カ月前に受けた大学法人の就職面接を「地獄だった」と振り返った。

 音節を繰り返す「連発」と呼ばれる症状。約20分の面接で、言葉が詰まって出ない「難発」も。退出時には「ありがとうございました」の、「あ」と「ご」が出ずに口がぱくついた。面接官は「取って食うわけじゃない」と苦笑した。官公庁など5カ所を受験し、すべて不合格。大学卒業時にも挑戦したが、だめだった。今後は海外で働くことを目指すという。

 カフェは吃音者の自助団体「名古屋言友会」が就活中の仲間同士、悩みを語り合おうと初めて開催。学生や若い社会人であふれた。「電話とか顧客の対応とかで、会社に迷惑をかけないか…」。参加した名古屋市の大学4年の女性(22)は、入社後の不安を吐露。広告代理店で働くことが夢だが、卒業を半年後に控えた今も就活に踏み切れない。5月から民間のリハビリ教室に通っている。

 金沢大准教授の小林宏明さん(43)=心身障害学=によると、吃音に悩む学生は会社側に知られると、不利になると考え、面接で症状を出さないことを最優先にすることが多い。このため集団面接などでも思うように発言できず、「積極的ではない」などと評価される恐れがある。氏名や学校名など言い換えの利かない固有名詞やあいさつが苦手で症状が出る吃音者も多く、「緊張に弱い」「うろたえている」などと誤解されるケースも少なくない。

 岐阜大教授の村瀬忍さん(聴覚・言語障害学)は、対策として「会社側に面接前に吃音があると伝えるのも一つの手段」と話す。「隠そうとするから苦しくなる。吃音があっても価値のある自分を訴えることに専念した方がいい」。だが「話すことを重視する職種や理解の進んでいない会社もあるため、慎重に判断するべきだ」との意見もある。

 経験を共有しようと、全国言友会連絡協議会(東京都)は2003年から会員の就活や就労、アドバイスなどを募ってまとめたデータベースを作成。ホームページ(「吃音」と「職業データベース」で検索)で、約270人の経験を公開している。

 小林さんは「症状と向き合う強さを持った吃音者も多い。話し方だけで判断すれば、有用な人材を逃すリスクもある」と指摘。採用側に「症状が出ても言葉が出てくるまで待ったり、うなずいて聞く姿勢を示すなど、流ちょうに話せないハンディキャップを補ってほしい」と要望する。

 (山本真嗣)

【吃音】 言語障害の一つで、大半は幼児期に発症。数年で自然消滅することも多く、成人の1%にあるとされるが、原因は不明。対処できる病院も少なく、言語聴覚士や耳鼻咽喉科、心療内科などの医師が、発声法のリハビリや薬物療法など各自の方法で取り組んでいる。22日は「国際吃音啓発の日」。

「吃音カフェ」で、就職活動について、若い社会人(左奥と中央)に経験を聞く吃音の学生ら=名古屋市昭和区で
「吃音カフェ」で、就職活動について、若い社会人(左奥と中央)に経験を聞く吃音の学生ら=名古屋市昭和区で