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【暮らし】合同労組揺らぐ連帯 組織・加入者の意識にズレ

2014/10/06

 比較的大きな企業の正社員が加入する社内労働組合とは別に、企業の枠を超えて労働者を組織する合同労組(地域ユニオン)が、労使紛争での存在感を増している。1人でも加入できるため、社内労組のない中小企業の従業員や増加傾向にある非正規労働者が、解雇や賃金未払いなどの不当性を訴えようと利用する事例が多い。ただ、組合と、加入した労働者の意識の違いもあり、双方の信頼関係が崩れ、金銭をめぐる紛争も起きている。

◆解決金めぐりトラブルも

 「信頼関係には気を付けていたつもりだったが…」。労使紛争の解決金をめぐって、元組合員らに訴えられた愛知県内の合同労組幹部は、痛恨の裁判を振り返った。

 元組合員らは、勤めていた会社に不当解雇されたと、この労組に加入。加入費や月の会費などを支払い、労組の支援で団体交渉をした。会社は2009年に解決金として1500万円を労組の口座に入金。労組は一定割合を「カンパ」するよう求めたが、元組合員らは全額を渡すよう求めて翌年、名古屋地裁に提訴した。

 組合側は「事前にカンパの合意があった」と主張したが、元組合員らはこれを否定。「解決金は自分たちに支払われたもの」と訴えて1審、2審とも元組合員側が勝訴。11年1月の2審判決は「実質的な成功報酬として15%も得ることは、弁護士以外の法律委任事務を制限する弁護士法の趣旨に反する」と断じた。金銭をめぐる争いは2審で事実上終わった。


 裁判コストなどを含め、労組にとっては運営面で大きな痛手になった。「勝訴した元組合員も、それでよかったとは思えない」と労組幹部。弁護士費用が生じた上、解決金を手にするまでに2年近くかかった。


 「労働紛争の解決手段として、労組を通じた団体交渉の大切さを理解してもらえるように、今後も努力したい」と話した。

      ◇

 「解決金の2割を労組へと言われ、仕方がないと思った」。会社の部門整理で雇い止めを昨春通告され、同僚と首都圏の合同労組に駆け込んだ、埼玉県在住の元非正規社員50代女性。団体交渉では雇用継続を強硬に求めたが、結局は金銭解決に。組合には1千万円を超える額が入った。

 女性は「突然、雇用を切ろうとした会社のやり方が許せなかった。皆で訴えられて良かった」と、労組の活動には肯定的。でも、街宣活動や別の労使紛争の応援にも駆り出されたのには「精神的負担が大きかった」という。「早く解決して次の人生をスタートさせたいという人もいた」と複雑な思いも残る。

 労組の活動にはコストがかかる。安定的に組合費が入る社内労組と比べ、自前で事務所を維持し、活動費用を捻出しなければならない合同労組の懐は厳しい。労使紛争の解決金から、カンパを求めるのが普通に行われている。事前の文書で解決金の2、3割のカンパに合意するよう求める合同労組もある。

 東海地方の合同労組の関係者は「非正規や中小企業社員の解雇や賃金未払い問題の増加で、駆け込みが増えている」と話す。近年の特徴は解決金の少額化で、1人の案件は10万~数10万円程度。弁護士事務所などは敬遠しがちで「それとなく合同労組を紹介する弁護士もいる」と明かす。

 独り善がりの依頼も悩みの種だ。「最初から組合費の支払いを拒否したり、恨みから会社をつぶしてくれという人も。労組本来の趣旨である、労働者全体の利益を考えた連帯が薄れつつある」と嘆く。

(林勝)