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【暮らし】効率化で過重労働を改善 ワークライフバランス推進

2014/09/19

 長年続いてきた過重労働の悪弊を断ち切ろうと、労働組合と連携してワークライフバランス(WLB、仕事と生活の調和)を推進する企業が出てきた。給与などの処遇をめぐる労使交渉とは別に、過重労働の現実を直視して“共闘”。効率的な働き方で残業減を達成すれば賞与で報いるなど、社員が前向きに取り組める環境づくりを模索している。

 2011年度から12年度にかけて、東日本大震災復興関係事業で16%も受注が増えたのに、残業時間は1%削減を達成。建設コンサルタント「パシフィックコンサルタンツ」(東京都多摩市)が、効率的な働き方の改革に努めた成果だ。

 都市開発や防災などの設計や計画をする同社の顧客は、官公庁が多い。例年、予算消化期限の年度末に業務が集中し、長時間残業が続出。労務管理上の長年の懸案だった。声を上げたのは労働組合。働き方の見直しを提案する「ワーク・ライフバランス」(東京都港区)の小室淑恵社長の講演会を、09年秋に労使共催で開いた。

 「残業前提の成果ではなく、時間当たりの成果の大切さを労使で共有した」と労務部担当課長の油谷百百子(あぶらやももこ)さん(40)は言う。社長直轄の推進事務局をつくり、翌年からワーク・ライフバランス社の指導が始まった。

 職場ごとに仕事の効率化を目指す手法と、特に残業の多い社員向けの研修を併用。設計業務は専門性が高く、個人が仕事を抱え込みやすいが、他の人に任せられる仕事は分担できるように努めた。グループ内の意思疎通がスムーズになり、協力関係が広がった。上司の仕事の配分や工程管理もしやすくなった。

 会社は仕事の効率化の達成度に応じて賞与に反映させると明言。残業より時間当たりの成果を出した方が得になる仕組みを取り入れた。この結果、年度末の平均残業時間は3年前より約15%減った。油谷さんは「非効率な働き方で病気や職場環境の悪化を招くと結局、自分の首を絞める。長期の視点で仕事をとらえる考え方を浸透させたい」と話す。

     ◇

 海外物流大手の川崎汽船(東京都千代田区)も昨年、一部職場で試験的にワーク・ライフバランス社の指導を受けた。労組執行委員長の大植寿二郎(おおうえじゅうじろう)さん(37)は「当社は現場に大きな裁量権が与えられ、やりがいにつながっているが、仕事を頑張ってしまう傾向も強い。長時間労働が当たり前という社風でいいのか、見直しを提案した」と語る。会社側も長年、過重労働の実態を問題視。「労使協調で問題解決を目指す方向は一致していた」と、人材開発チーム長の大島隆史さん(44)は明かす。

 改善点を探すと、まず浮かんだのは業務のタコつぼ化。取引先との関係や仕事の流れなど、担当者しか知らないといった事例が目立つ。「どんな仕事で組織が回っているのか把握できず、適正人員が割り出しにくかった」と大島さん。「各部門は人件費で保守的な面があり、人員増は悪という潜在意識があるのでは」とみる。業務の効率化の一方、足りない人員を増やす方策を考えているという。

 残業への問題意識は現場に浸透しつつあるが、残業減で収入減となることに抵抗感もある。そこで、例えば残業2時間を加え、計9時間でやってきた仕事を通常勤務内で終わらせれば、残業代を含む賃金を支払うといった評価方法の導入を検討中だ。「より短い時間で成果を挙げる意識を組合員に定着させるのも、これからの労組の役割では。その成果に見合った給料制度を考えたい」と大植さん。

 ワーク・ライフバランス社のコンサルタント、風間正彦さん(41)は「育児や介護の制約がある人も含め、生き生きと働き続けるために効率化は重要。労使ともに柔軟な発想で対策を考えてほしい」と話している。

 (林勝)