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【暮らし】職場の会話不足どう解消 社員が集い「井戸端会議」

2014/08/15

 「上司と話しづらい」「会話が少なく、職場の雰囲気が悪い」-。パソコン環境が整えばどこでも仕事ができる、現代特有のコミュニケーション不足に悩む職場も少なくない。パソコンに向かうデスクワークが多い大阪のIT企業では、社員の意見交換の場を設け、職場のコミュニケーションを活性化させている。

 法人向けのメール配信サービスを手掛ける「コンビーズ」(大阪市)。社員20人という小規模な組織を生かし、働きやすい職場づくりのため、ユニークな仕掛けをいくつも用意している。中でも2009年から続くのが、社員による「井戸端会議」だ。

 月2回、無作為に選ばれた4~5人の社員が、各自テーマを持ち寄り、約一時間、意見を出し合う。業務内容や仕事の進め方のほか、「最近、感動したこと」「お薦めの映画」など、やわらかいテーマも多い。

 201回目となる8月最初の井戸端会議では、「オン・オフの切り替え」「夏バテ対策」「人事評価を振り返って」など5テーマが議題に。1人が進行役を務め、会話を交通整理しながらテンポよく進められた。オン・オフの切り替えを提案した女性(25)が、質問の趣旨を説明。「午前零時を境に気分を変えるため、服装で変化をつけている」という自身の話が飛び出すと、意外な一面に場が盛り上がった。

 社長を含めた全社員が、互いの働きぶりを評価する人事評価については、「項目が多く、時間がかかる」「厳正にやればやるほどつらい」など、率直な意見が出た。「戒めの場としてではなく、自分を受け止める場として捉えたい」「自分が気付かない面を褒めてもらえるとうれしい」という前向きな声もあった。

 社長の平井武さん(43)は井戸端会議の狙いを「自分の考えを社内に発信できる安心感を感じてほしい。他人の話も聞き、考え方を共有することで、社員同士の関係性を築く機会にしたかった」と説明する。会議の発言内容は口語体の議事録に記録され、全社員が共有する。

 そもそもは「上司と話しづらい」など、仕事の上で不要な障壁を排除したいとの思いから始められた会議だった。その点は「マイナスをゼロにするだけで、非効率かもしれない」と平井さん。それでも「指示待ちではなく、自分から発信する姿勢になってほしい」という。他社から転職してきた営業グループの濱岸香織さん(29)は「自分の意見を言う機会が格段に増えた。自分の口から出た言葉に責任を持つ意識も芽生えた」と変化を実感する。

     ◇

 日本能率協会(東京)が昨年、全国の正規、非正規雇用の就業者千人を対象に実施した調査によれば、職場でコミュニケーション不足を感じる相手は、「上司」が32・9%で最多だった。親睦を深めるのに有効な方法は、雑談(48・8%)、飲み会(40・7%)、あいさつ(31・2%)と続く。社員旅行などのイベントより、普段の交流を重視する傾向があった。

 一方、精神面で不調となる原因としては「職場の人間関係」(52・9%)が最も多く、長時間労働や成果主義重視などの職場環境により、社員同士でコミュニケーションがしにくい状況もうかがわれた。

 職場のリーダーシップ論をテーマにした研修の講師を務める、同協会経営・人材センターの中島克紀さんは「職場のリーダーとなる人材が、コミュニケーション活性化の鍵を握る」と指摘する。心を通わせる人間的なコミュニケーションを心掛け、勇気づけや励ましの言葉がけを。「遅刻するな」の否定形ではなく、「時間通りに来てください」と言葉遣いに配慮する。

 態度も重要。「腕組みをする人は腕組みをほどいて、3秒に1回はうなずくなど、自分から相手に心を開く姿勢から始めてみては」とアドバイスしている。

(福沢英里)

井戸端会議で意見交換をする社員=大阪市北区のコンビーズで
井戸端会議で意見交換をする社員=大阪市北区のコンビーズで