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【暮らし】里親ら「育休」を望む声 特別養子縁組の試験養育期間

2014/07/24

 生みの親が育てられない乳幼児を育てたいと望む共働きの家庭が、法律上の親子になる「特別養子縁組」で縁組が成立するまでの間も、血縁のある親子と同じように育児休業(育休)を認めてほしいと求めている。子どもを託す側からも、同意の声が上がる。

 ◇ ◇ ◇

 「仕事をしながら子育てをするのは普通のことと思っていた」。三重県の40代の教員はため息をつく。

 この夫婦は不妊で「実親が育てられない子どもを育てるのが社会のためでは」と考えた。昨年、養子縁組を希望する里親として認定された。育休について県に問い合わせたが、取得できないことが分かった。「周囲は育休を取って仕事復帰している。子どもによって両立支援が違っていいのか」

 特別養子縁組は家庭裁判所の審判で成立し、それには6カ月以上の監護(試験養育期間)が必要と民法が定めている。成立するまでの間、子どもは、住民票上は「同居人」となる。

 厚生労働省は育児・介護休業法の施行についての通達で、「子」の定義を「労働者と法律上の親子関係がある子」とする。特別養子縁組成立前の子どもは、法律上の親子関係がなく「含まれない」と同省。公務員については総務省が同様の通知を出し、三重県も同じ扱いだ。

 民間では育休を認める例もある。特別養子縁組前提で赤ちゃんを迎え、民間の病院で1年間の育休を取った東北地方の看護師(45)が、地元の労働局では支給されなかった育児休業給付金を受けられるよう国の労働保険審査会に再審査を請求し、昨年末認められた。これを受け厚労省は今年1月から、給付の支給対象を「特別養子縁組を成立させるための監護を受けている者についても、法律上の親子関係に基づく子に準じて取り扱う」と見直した。

 愛知県の元児童相談所長で、新生児の特別養子縁組を推進してきた萬屋(よろずや)育子さん(64)は現在、同県の里親委託推進委員を務める。「育休も認められる流れになるかと思ったが、ならなかった」と残念がる。子どもを育ての親に託す立場として「今までは子どもを迎える際に仕事を辞めるのがほとんどだったし、私も休みが取れたり、仕事を辞める人を優先してきた」と明かす。「1年休めれば、子どもと関係はつくれる。共働きの家庭が増え、特別養子縁組のみならず里親家庭も広く求めるため、育休は必要」と考える。

 棚村政行・早稲田大法学学術院教授(家族法)は「特別養子縁組は実親子と同様の関係をつくる制度で、生みの親との親子関係が終了するから慎重を期して、試験養育期間を要件としている。その意味を給付金の裁決では反映させた。育児休業も取れるよう、制度を見直すべきだ」と話す。

◆民間では認める例も
 「生んでいないからこそ、育休を取って一緒にいることが信頼関係を築く上で大事。もっと一緒にいたいけれど、将来の学費も考えると仕事に復帰できてよかった」。前出の看護師は、特別養子縁組が成立した、もうすぐ2歳の男児をあやしながら話した。

 自ら出産し、育てる子どももいる。「給付金や育休が認められないことは、この子が普通に生んだ子と差別されているような気がする。血縁がなくても同じ赤ちゃん。愛情を込めて世話をする特定の大人が必要で、生みの親にそれができないからこそ、私は息子を迎えた」

 8カ月の赤ちゃんと特別養子縁組を申し立てしているほかの女性は、民間企業に勤め育休中。「長く勤めている会社だから、仕事も要領が分かり育児と両立できると感じた。働いて納税していたい気持ちもある」と話した。

(吉田瑠里)

特別養子縁組を申し立てている育休中の女性は、子どもをひざに乗せ「この一年間は宝物」と話した
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