中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【社会】障害者も海の仕事「収入増」「担い手確保」志摩で連携

2014/07/22

 福祉施設が水産業の仕事を請け負う「水福連携」の取り組みが、漁業が盛んな三重県志摩市で始まった。働く場所が少ない障害者の収入を増やし、高齢化が進む漁業や水産業の担い手確保にもつなげようとする試み。全国でも先駆的な取り組みとして期待を集める。 (三重総局・相馬敬、写真も)

 ◇ ◇ ◇

 普段は花の苗を育てているハウスに、少し不似合いな漁網の山。志摩市の障害者支援施設で、利用者の木村吉子さん(37)は自分たちで修繕した網を点検しながら「網が大きいから破れたところを探したり、糸を結んだりする作業が大変だったけど、ちゃんとできた」と笑顔で話した。

 手にしていたのは、アオサノリの養殖網。修繕の受注に先立ち、利用者が試しに20枚の破れを繕ったところ、依頼した三重外湾漁協から「これなら大丈夫」と合格点をもらった。

 近年、障害者の仕事を農業に見いだす「農福連携」が各地で進む。だが、海への転落といった危険が伴う漁業、水産業の現場で、障害者の雇用はほとんど進んでいない。そこで三重県の若手職員9人が作業班をつくって水福連携を模索。真珠養殖で使うアコヤガイの稚貝を付着させる網作りなど、陸地での作業は可能だと分かった。

 作業班の仲介で、志摩市社会福祉協議会が地元の県栽培漁業センターから網作りを請け負った。市社協が運営する支援施設を利用する知的障害者らが2カ月間、1日に5~7人で針金を取り付けたり、おもりをくくりつけたりして3月上旬、500枚を納入した。

 利用者の1人、山本秀則さん(44)は「近所には漁師さんが多い。海の仕事は楽しい」と語る。県水産経営課の栗山功主査(42)は「従来は接点がなかっただけで、探せば障害者ができる作業はある」と話す。

 その後、市社協は水産関係に「営業」をかけ、養殖網の修繕のほか、アオサノリの養殖業者から、網を張る支柱棒500本の清掃作業を受注。漁業者側には、高齢化によって担い手が減ったり、漁師自ら手掛けていた作業ができなくなったりという事情がある。

 18日からは、漁協の協力を得て、市内の市場で障害者が魚を販売する試みも始まった。施設職員の佐々智美さん(55)は「作業を任せることで力を発揮する利用者は多い」と期待を寄せる。市社協の天満衛障がい福祉部長(47)は「この地域は働き口が少なく、障害者の就労は難しい。できる作業をさらに探したい」と意気込む。

 水福連携は全国でも、ミンチにするトビウオの下処理を漁協から請け負う鳥取県の例などがあるだけ。障害者雇用に詳しい三重大の荒川哲郎特任教授は「三重県沿岸部のように、人間関係の結び付きが強い地域では広がりが期待できる」と話している。

施設職員(右)と一緒に繕ったノリ養殖網を点検する利用者=三重県志摩市で
施設職員(右)と一緒に繕ったノリ養殖網を点検する利用者=三重県志摩市で