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【暮らし】障害者雇用へ「職場実習」を 受け入れ企業拡大に期待

2014/07/18

仕事の適性、事前に判断

 初めて障害者を雇用する中小企業にとって、職場体験は有効な手段だ。どんな仕事ができるのか、苦手な作業は何かを事前に把握できる。働く側にも職場の雰囲気が分かり、安心して働けるメリットがある。「お互いを知る良いきっかけ。障害者雇用というとハードルが高いと感じる企業もあるが、それを下げる効果もある」と指摘する声も。専門家は学生のインターンシップ(就業体験)のように広がることを期待する。 (寺本康弘)

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 東海地方や東京都などで中国料理店を展開する「浜木綿(はまゆう)」(名古屋市昭和区)。同区にある店の厨房(ちゅうぼう)で、軽度の知的障害がある大渡三博(おおわたりみつひろ)さん(22)は、軽快に包丁を動かす。赤ピーマンを炒めもの用に切る作業は、20個を7分で済ませる。

 働き始めて5年目。地元の養護学校高等部2年のときに参加した職場実習がきっかけで就職した。同社は障害者を雇用していなかったが、2007年にハローワークの指導を受けて取り組み始めた。当時、大渡さんの通っていた養護学校の教諭から熱心に依頼されたことがあり、職場実習の受け入れを始めた。採用担当マネジャーの新宮敦(しんぐうあつし)さん(46)は、大渡さんの初印象を「洗い場で黙々と作業する姿に、精神力の強い子と感じた」と振り返る。

 新宮さんは「こちらが勝手に仕事ができないと思い込んでいた。でも実習で思った以上にできると分かった。人によって仕事や職場に合う、合わないがあるので、実習は受け入れた方がいい」という。仕事について「大変さ半分、楽しさ半分」と笑う大渡さん。「忙しいときは大変だけど、皆と話すのは楽しいし、十分満足している」

 同社は毎年、職場実習で5人前後を5日間ほど受け入れる。現在、雇用する障害者は大渡さんを含め3人で、法定雇用率の達成にはさらに八8、9人の採用が必要だ。新宮さんは「今後も実習を受け入れ、将来は各店1人ずつ雇用できれば」と話す。

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 ただ、障害者の職場実習を受け入れる企業は多くない。愛知労働局は「実習の経験がない企業では、仕事の用意や受け入れ準備をハードルが高いと感じ、実施に至らないのではないか」と分析する。愛知県特別支援教育課によると、ある特別支援学校(卒業生は30人規模)は11年度、職場実習を320事業所に依頼したが、実施できたのは21件だった。

 各地で受け入れ企業を増やそうとの取り組みが進んでいる。宮崎県障害福祉課は「障がい者職場実習受入マニュアル」を08年度に作成。企業向けセミナーで配布するほか、ホームページで公開している。

 実習受け入れのためにどんな準備をしたらいいのかや、障害者の特性、初めて受け入れる企業からよくある質問、回答などを紹介している。マニュアルは初めて受け入れる企業から歓迎されているという。

 『幸せな職場のつくり方 障がい者雇用で輝く52の物語』(ラグーナ出版)の著書がある法政大大学院の坂本光司教授は、就労前の職場への受け入れについて「健常者で浸透してきているインターンシップのように広がっていくことが望ましい」と話す。

 「雇用した場合に普段、接するのは経営者でなく現場の社員。社員の意識が高まるのにも役立つ」と指摘する。実際に体験を受け入れた企業の中には、実習を担当した社員から経営者に「この人を雇ってほしい」との声が上がったケースもあるという。

 一方、就労する側にとっても「会社にはそれぞれの空気があり、合うか合わないかはやってみないと分からない。長く勤めるためにも有意義」と話す。「受け入れには時間や手間がかかり、実践する企業はまだ多くないが、企業経営者はもっと関心を持ってもらいたい」と話している。

野菜を手早く切る大渡三博さん(右)。働くきっかけとなったのは職場実習だ=名古屋市昭和区で
野菜を手早く切る大渡三博さん(右)。働くきっかけとなったのは職場実習だ=名古屋市昭和区で