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【地域経済】追跡 人手不足/自動車整備に女子力

2014/07/02

技術高度化 若者離れでピンチ

 自動車の販売店で、車検や修理を担う国家資格の自動車整備士のなり手が減っている。若者の車離れが進み、養成する専門学校の入学希望者も10年間で半減。ハイブリッド車(HV)などエコカーの普及で高度な知識を持つ整備士の需要が増える中の人手不足は深刻な課題。獲得に必死の販売店は、女性整備士の採用に活路を見いだすなど模索に乗り出した。(池内琢)

 つなぎ姿の小柄な女性が、ボルトを手際よく締めていく。「ホンダカーズ三重北鈴鹿道伯(どうはく)店」(三重県鈴鹿市)で働く喜多千代美さん(23)は、自動車販売店グループ「ICDAホールディングス」(同)が初めて採用した女性整備士だ。

 入社4年目で、毎月200台の車検をこなす。子どものころからスポーツカーが好きで、整備士の道を選んだ。後輩の指導も担い職場リーダーとして忙しい。

 「少ない応募の中から、良い整備士を採用する必要がある。女性は重要な選択肢だった」と同社副社長の向井俊樹さん(41)。車を修理し、安全を保証する整備士の確保は車販売業にとって死活問題。力仕事だが、喜多さんは道具を駆使し、仕事の改善にも取り組む。

 向井副社長は「整備士の人材不足はこれからも続く。女性を積極的に採用していく」。同グループは既に来年入社の採用で2人目の女性整備士を内定した。

 整備士を育てる専門学校も高校生らの勧誘に力を注ぐ。トヨタ自動車系の専門学校「トヨタ名古屋自動車大学校」(愛知県清須市)の今年の入学試験の応募者は約七百人で、10年前の半分。志願者の能力や適性を考慮すると、定員の520人を何とか保っているのが実態だ。

 川口浩二副校長(57)は「入学希望者が減った要因は若者の車離れ」と指摘する。整備士の父親に憧れて入学した3年の鈴木健悟さん(20)も「高校時代、車の話ができる友達はほとんどいなかった」と振り返る。

 入学希望者を増やそうと同校は毎年、全教職員70人で九州など1800の高校を訪れ、勧誘を続ける。遠くの高校から指定校推薦で入学する自動車整備科の新入生には、1年目の寮費50万円分を全額補助するなど優遇策を用意。専門学校対抗のエコカーレースも開き、車に興味を持ってもらう工夫を凝らしている。

 ◇ ◇ ◇

◆外国人活用も検討 業界団体

 自動車整備士の減少を食い止めようと、日本自動車整備振興会連合会などの業界団体も協議会を立ち上げた。小中学生への出前授業で整備士のイメージアップを図るほか、女性や外国人の活用を検討する。

 国土交通省によると、全国に50ある自動車整備士の専門学校の2013年の入学者は約6000人で、10年前の半分。08年秋のリーマン・ショックによる落ち込みの後、福祉や介護系の専門学校で入学者が増えているのとは対照的だ。

 整備士の平均年齢は43.3歳で、うち2割が55歳以上と高齢化も進む。電子回路が複雑なハイブリッド車(HV)などエコカーの販売は今後伸びると予想され、「知識の豊富な整備士を育てないと、お客さんに車を提供できない」(トヨタ自動車幹部)とメーカーの危機感も強い。

 こうした状況を打開するため、自動車整備人材確保・育成推進協議会が4月に発足した。国交省は「整備士の不足は車の安全確保に重大な支障を及ぼす」とみて、国を挙げて人材育成に力を入れていく。

人手不足の自動車整備業界で働く喜多千代美さん=三重県鈴鹿市で
人手不足の自動車整備業界で働く喜多千代美さん=三重県鈴鹿市で