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【経済】社会人スタート4割非正規 成長の機会恵まれず

2014/03/21

 高校や大学などを卒業後、非正規社員として社会人生活をスタートする若者が増え、最近では全体の約40%に達している。賃金を抑えたい企業が正社員の採用を絞り込んでいるからだ。だが働き始めた時点で、将来を担う人材として手厚い教育や訓練を受けられず、能力を伸ばすチャンスに恵まれない若年層が膨らんでいけば、労働力の質の低下につながりかねない。(白石亘)

 ◇ ◇ ◇

 名古屋市の自動車部品メーカー、エイベックスで経理などを担当する大岩千恵美さん(25)が念願の正社員になって1年がたった。「相性のいい会社に巡り合え、将来、成長した自分の姿をイメージできるようになった」とうれしそうだ。

 愛知県内の大学に通い、就職活動では約50社を回り、電気機器の販売会社から契約社員の内定をもらった。契約社員は雇用期間が限定される。「3年後に正社員になれる制度はあったが、やはり不安定」と悩んだ末に辞退。結局、就職先が決まらないまま2012年春に卒業した。

 愛知県の事業で職業訓練を受けた後、同年秋から派遣社員としてエイベックスの事務部門で働き始めた。同社は海外向けの仕事が増え、業績は伸びていた。採用を増やしていた時期だったことも幸いし、13年2月に正社員になれた。加藤明彦会長は「大岩さんのような優秀な学生に就職先がない一方、われわれのような中小企業は若者がほしくても採れない」と、雇用のミスマッチ解消を訴える。

 総務省によると、最初に就いた仕事が非正規だった人の割合は、バブル期は10%台前半だったが徐々に増え、07年10月~12年9月には過去最高の39・8%に達した。正社員の割合が高い愛知県でも、初職が非正規だった人の比率は33・1%に上る。

 社会に出てから最初の数年間は、仕事の基礎知識、技術を身に付ける大切な時期だ。労働問題の調査をする独立行政法人、労働政策研究・研修機構の堀有喜衣副主任研究員は「職業能力を伸ばすには、企業内での教育訓練が重要。だが、非正規には正社員のように手厚い教育が行われにくく、スタート地点で大きなハンディを負ってしまう」と語る。

 企業が非正規を活用する理由は「賃金の節約」が4割でトップ。正社員は勤続年数に応じて昇給するが非正規は給料がほとんど上がらない。最近、ユニクロを運営するファーストリテイリングやスターバックスコーヒージャパンなど小売り・外食大手が、サービスの質を向上するため非正規を正社員に転換する動きもあるが産業界全体では少数派だ。

 堀氏は「雇用の調整弁として非正規の若者が増え続ければ、社会全体が不安定になる」と指摘。若者の働きぶりを見極める試用期間を設け、企業に正社員採用のハードルを下げるよう促す厚生労働省の「トライアル雇用制度」などの活用を呼び掛けている。

派遣勤務を経て、正社員になった大岩千恵美さん(左)=名古屋市瑞穂区のエイベックスで
派遣勤務を経て、正社員になった大岩千恵美さん(左)=名古屋市瑞穂区のエイベックスで